はじめに
xG(Expected Goals/ゴール期待値)は、シュートを放った状況がどの程度の確率で得点に結びつくかを評価する指標である。言い換えれば、「どれだけのチャンスが与えられたか(または自ら作り出したか)」を定量化したものだ。 一方、得点数はそのチャンスのうち、実際にゴールに結びつけることができた成功事象の数である。
したがって、得点数とxGの差分(得点−xG)には大きく2つの解釈が存在する。
1つは、選手固有のシュート能力を反映する指標であるという見方。
もう1つは、単に短期的な運・不運を表したノイズであるという見方だ。
この違いを検証するために、本稿では得点数とxGの差分の年次相関を調べる。もしこの差分が選手やチームごとに年をまたいで相関する(=再現性がある)ならば、「決定力」としての能力を表していると考えられる。一方、相関がほとんど見られない場合、それは運の要素を可視化したにすぎない可能性が高い。
手法
分析には、Jリーグ公式サイトで公開されている選手別のxGおよび得点データを用いた。
2019〜2025シーズンの全選手データをスクレイピングで取得し、各シーズンのデータを統合して「得点−xG」の差分を算出した。これを選手ごとに前年と当年で対応づけ、相関係数を計算した。
なお、公式サイトにも「得点数とゴール期待値の差分」という指標があるが、本稿では独自に再算出を行った。理由は、公式データでは負の値(=決定力がxGを下回った選手)が省略されているため、情報が欠落しているからである。
結果
選手単位の相関
まず、選手ごとに前年と当年の「得点−xG」差分をプロットした結果を以下に示す。

シーズンによってばらつきはあるが、全体として相関係数は の範囲に収まり、明確な相関は確認できなかった。
チーム単位の相関
同様に、チームごとに集計して相関を算出した結果を示す。

こちらも同様に 程度であり、チーム全体としても差分の再現性は見られなかった。
まとめ
得点数とxGの差分には年をまたいだ再現性が見られない。
つまり、この差分は「選手固有の決定力」よりも短期的な運・偶然の要素が強い指標である可能性が高い。
ただし、個別に見て特定の選手が複数シーズン連続でプラスの値を取り続ける場合、それは単なる運ではなくシュート技術やポジショニング能力など何らかのスキルを反映している可能性もある。
そのため、より詳細な検証のためにはシュート位置やコースといった別のデータを組み込んだ分析が有効だろう。